背景
建設・不動産・施設管理の現場では、「現地に行かないと状況がわからない」「既存建物の正確な寸法や状況が図面にない」「竣工後に建物情報が散逸する」という課題が長年続いています。従来の対処法は写真撮影や手作業の採寸で、手間とコストがかかるうえ、情報の精度と再利用性に限界がありました。スマートフォンのLiDAR普及や3Dカメラの低価格化により、空間そのものをデジタルデータとして記録・活用する動きが急速に広がっています。
内容
Matterportは、建物や空間を360度3Dデータとして記録し、ブラウザ上でバーチャルウォークスルーを可能にするクラウドプラットフォームです。専用の3Dカメラ(Pro3など)だけでなく、iPhone・iPadのLiDARカメラやAndroid端末でも撮影でき、撮影データはMatterportクラウドに自動アップロードされて処理されます。生成されたデジタルモデルは、平面図の自動生成、距離・面積測定、OBJやEシリーズCADファイルのエクスポート、BIMソフトへの取り込みまで対応しています。2023年にCoStarグループが26億ドルで買収したことで、不動産データ基盤との統合が進んでいます。主な活用場面は、不動産バーチャル内見、建設現場の進捗記録、既存建物の改修前調査、竣工デジタルアーカイブ、ファシリティマネジメントのベースデータ整備などです。
なぜ重要か
建設DXの実務で課題になるのは「現場と設計事務所・発注者の情報共有の断絶」と「既存建物の正確なデータがない」という二点です。Matterportはこの両方を解決する手段として機能します。特に、点群データやBIMが整備されていない既存建物では、Matterportのスキャンデータが改修設計のベースになります。また、施工中の現場を定期撮影してクラウドで共有することで、遠隔での進捗確認や関係者間の情報整合が取りやすくなります。RevitやArchicadとの連携プラグインも提供されており、スキャンデータをBIMモデル作成の下絵として活用するリバースBIM(Scan-to-BIM)ワークフローが整いつつあります。
日本への影響
日本では既存建物の改修・リノベーション需要が増加しており、正確な現況図が取れない案件でのMatterport活用が広がっています。大手ゼネコンや設計事務所での現場記録・品質管理ツールとしての導入事例も出てきています。不動産会社では賃貸・売買物件のバーチャル内見として定着しつつあります。iPhoneのLiDARを使えば追加機材なしで試せるため、中小設計事務所でも導入障壁が低いのが特徴です。一方、Scan-to-BIMの精度はスキャン密度や処理品質に依存するため、BIM連携を前提とする場合は精度要件の事前確認が必要です。国土交通省が推進するi-Constructionや3Dモデルデータの整備方針とも方向性が合っており、公共建築分野での採用も今後拡大が見込まれます。