背景
クラウドベースのCADツールは、設計現場のデジタル化推進によって急速に注目が高まっています。従来はデスクトップ型のCADが主流でしたが、リモートワークやチーム協働の重要性が増すなか、ブラウザアクセス可能で複数ユーザーの同時編集に対応したクラウドCADへの需要が加速しています。特にインテリアデザイナーや建築家、スペースプランナーといった2D中心の設計ワークフローを持つセグメントでは、導入障壁の低さと協働性が重視されており、Rayonはこの層を主ターゲットに成長を遂げてきました。2021年の創業以来、400万を超えるドローイングが同プラットフォームで制作された実績は、実務者からの支持を示す数字です。一方、建設・設計業界全体ではBIM化やデジタルツインへの投資が加速する中で、「軽量BIM」と呼ばれるアプローチ(オブジェクトデータと図面作成の融合)が、エンタープライズBIMとの棲み分けを示唆する新しいセグメントとして浮上しています。
内容
RayonはPartech主導のシリーズA調達で€10million(約150億円相当)を獲得し、既存投資家のNorthzone、Foundamental、Seedcampも参加しました。同社チームは35名に拡大しており、今後の急速な製品開発を支える人員体制が整っています。現在のV3では、オブジェクトに価格や製品参照、計算値などのデータを付与でき、これらをテーブル機能でフィルタリングしてスケジュール化する「軽量BIM」機能を提供しています。今年後半のリリース予定のV4では、3D機能がコラボレーション環境に統合されるほか、生成AI(画像生成・編集、ベクタートレース、CADブロック自動生成)とエージェンティックAI(タスク自動実行)が実装されます。スマートフォン・タブレットでのモバイルアクセスも拡張され、現場でのプラン確認や測定が可能になります。
技術的ポイント
Rayonの特徴は、「軽量BIM」アプローチにあります。従来のBIMソフト(RevitやArchiCADなど)は高機能である反面、導入コストと学習曲線が急峻であり、インテリアデザインやスペースプランニングといった比較的シンプルなワークフローには過剰なケースが多々ありました。Rayonは図面制作とオブジェクトデータの結合をシンプルに実現し、DWGやPDF、画像との互換性を確保することで、既存ワークフローからの移行障壁を下げています。V4で予定されている「エージェンティックAI」は、寸法や関連データの一貫性を保ちながら自動でプロジェクト内のタスクを実行する仕組みです。これは単なる画像生成ではなく、設計ロジックを理解した上での変更提案を意味し、デザイナーが確認・編集できるレベルの結果を残すことが重要です。クラウドネイティブなアーキテクチャと、ブラウザをプラットフォームとする選択は、デバイス依存性を最小化し、複数拠点での協働を容易にします。
業界への影響
グローバルなCAD・BIM市場では、Autodesk AutoCAD WebやDassault SystèmesのDraft(クラウドベース)など、既存プレイヤーも急速にクラウド化を進めています。Rayonのような新興企業による「軽量BIM」と「エージェンティックAI」の組み合わせは、既存の重厚長大なエンタープライズBIMとの棲み分けをさらに明確化させるでしょう。特にスモール~ミッドサイズのスタジオやインハウス設計部門では、ROIが明確で学習コストが低い選択肢への需要が高まることが予想されます。また、エージェンティックAIによる準自動化は、設計生産性の向上に直結する可能性があり、これが各ソフトウェアの競争軸として定着する可能性は高いです。インテリアデザインからスペースプランニング、さらに軽量BIMへと進化するRayonのロードマップは、設計実務の「段階的なデジタル化」を示唆するモデルとなり得ます。