背景

BIM環境における設計・施工・運用の各段階でデータが分断され、プロジェクトチーム間の情報共有が煩雑になるという課題は、グローバル業界全体で常に指摘されてきました。特にNemetschekグループは、傘下の複数プロダクト(Graphisoft Archicad、Autodesk Forma等)が互いに疎結合のままでは、顧客の統合的なワークフローを実現できないと判断しました。同時にAI・機械学習の進展により、BIM初期段階(基本計画時)から性能最適化を支援するツールのニーズが急速に高まっています。こうした背景の下、Graphisoftは「Design Intelligence Strategy」を掲げ、Nemetschekグループ全体の統合化と、AIを軸とした新しい設計支援機能の提供に向けて動いています。

内容

Graphisoftは、2026年6月11~12日にサンディエゴで開催される米国建築家協会(AIA)カンファレンスにおいて、2つの重要な発表を予定しています。第1は、Nemetschekグループレベルの「オープン協調レイヤー(Open Collaboration Layer)」です。このプラットフォームは、Graphisoftツールおよび広くNemetschek傘下のソリューションを使用するチーム間で、モデル、ドキュメント、課題、意思決定をすべて同期させることを目的としています。IFCBCF、PDF、DWG、RVTといった業界標準フォーマットに対応し、2026年後期にアーリーアクセスが開始される予定です。第2は、Archicad update における Autodesk Forma Data Management との統合接続で、ユーザーが Archicad から直接 Forma のワークフローにネイティブフォーマットでデータを交換できるようになります。さらに、Graphisoftは AI と統合シミュレーション機能を備えた「Web ベース設計インテリジェンスプラットフォーム」も開発中で、マスプラン、レイアウト、性能シナリオを共有ブラウザ空間で BIM 専門知識なく検討・最適化でき、10月のアーリーアクセス予定となっています。

技術的ポイント

オープン協調レイヤーの核は、IFC と BCF という設計・エンジニアリング業界の事実上の標準フォーマットへの完全対応です。既存の Revit・Archicad・他の BIM ツール間での相互運用性を従来のプラグイン方式ではなく、プラットフォームレベルで実現する点が重要です。一般的に、各 BIM ツール間のデータ交換には、エクスポート→インポート→修正という手作業が伴いますが、本レイヤーはリアルタイム同期を目指すため、変更がプロジェクトチーム全体に即座に反映される構造になります。Web ベース設計インテリジェンスプラットフォームについては、AI と物理シミュレーション(構造、環境・日射・温熱等)をプロジェクトゴールと制約条件に対して統合実行する仕組みです。従来は Revit や Archicad で詳細設計してから別ツールで性能検証する流れでしたが、本機能は基本計画段階でマスプラン案を素早く複数生成・評価でき、意思決定プロセスを短縮します。Archicad-Forma Connection は、Autodesk のジオメトリ・マテリアル管理エンジンとGraphisoft の BIM データベースを双方向で同期させ、設計者が自分の使い慣れた環境で作業を続けながらもクラウドネイティブな共同作業環境にアクセスできる点が特徴です。

業界への影響

これらの施策は、グローバル AEC 業界における「プラットフォーム統合」の加速を象徴しています。従来は Revit が事実上の標準として君臨していましたが、本発表は「複数ツールの共存+オープン標準を軸とした統合」という新しいパラダイムを提示しています。大規模プロジェクトでは建築・構造・MEP が異なるツールを使用することが一般的ですが、本レイヤーによってそうした異種環境でも「単一の情報源」を保つことが可能になります。また、AI を活用した初期段階の性能最適化は、特に脱炭素化要件が強まる中で、設計プロセス自体を根本的に変えるポテンシャルを持っています。一方、Autodesk(Forma)との連携は、Nemetschek と Autodesk の二大 BIM/AEC プラットフォーマーが競争の中にも相互運用性を模索する動きとして注目されます。これにより、ロックイン問題を軽減し、顧客の選択肢が広がります。