背景

Graphisoft と親会社 Nemetschek Group は、建設・設計業界における「サイロ化」の問題に直面しています。従来、BIM モデル、設計文書、課題管理、施工情報が異なるツール・プラットフォーム上に分散され、チーム間での同期が困難でした。特に多分野(建築・構造・設備)の協働や、オーナー・施工者との情報共有では、データの不整合やワークフロー断裂が生産性低下の要因となっていました。Nemetschek Group は、グループ傘下の各ソフト(Graphisoft Archicad、Autodesk との提携など)を統合し、「クラウドネイティブな単一プラットフォーム」で企画段階から詳細 BIM、ライフサイクル協働までを一貫処理する戦略へ舵を切っています。本発表はその重要なマイルストーンです。

内容

Graphisoft は 6 月 11~12 日の AIA Conference on Architecture & Design(サンディエゴ)で、以下を発表予定です。

1. **新しいオープン協働層(Open Collaboration Layer)**

Nemetschek Group レベルの取り組みで、モデル・文書・課題・意思決定を Graphisoft ツール及び Nemetschek ポートフォリオ全体で同期させます。IFCBCF、PDF、DWG、RVT といった業界標準フォーマットをサポートし、2024 年内に早期アクセスが予定されています。

2. **Design Intelligence Platform(ウェブベース設計支援 AI)**

AI と統合シミュレーションを活用し、ユーザーが建物ボリューム、レイアウト、性能シナリオを探索・最適化できます。ブラウザ共有ワークスペースで動作し、BIM 専門知識を要しない設計手法を実現。10 月の早期アクセスを予定。

3. **Archicad–Autodesk Forma Connection**

今後の Archicad アップデートで組み込まれ、ユーザーが Archicad を離れることなく Forma のデータ管理ワークフローとネイティブ形式でモデル・文書・プロジェクト情報を交換可能になります。

技術的ポイント

これらの施策は、従来の「サイロ化」から「相互運用性重視」への大きなシフトを示しています。

- **協働層の設計**

IFC、BCF、PDF、DWG、RVT という複数フォーマットの同時管理により、異なるツール間でのデータ損失や変換エラーを最小化する仕組みです。BCF(BIM Collaboration Format)対応は、特に課題管理と施工情報の連携強化を狙っています。

- **AI/シミュレーション統合**

Design Intelligence Platform は、従来の「設計後に解析」ではなく「設計と解析の並行実行」を実現。これはパラメトリック設計概念の応用で、Archicad のパラメトリック機能と Autodesk Forma の環境解析を融合させたものと考えられます。

- **Forma との直接接続**

Autodesk との連携強化は、Nemetschek と Autodesk の競争関係を緩和し、顧客選択肢を拡大する戦略です。ユーザーが Forma と Archicad を「ネイティブ形式」で交換できることで、変換による遅延・エラーが排除されます。

業界への影響

この発表は、BIM/AEC 産業全体に 3 つの大きな波紋をもたらします。

1. **プロジェクト実行の迅速化**

企画段階から詳細設計・施工・運用までを同一プラットフォームで管理すれば、情報断裂が減少し、リーク・変更・意思決定遅延が削減されます。

2. **ベンダーロックインの緩和**

オープン協働層と多形式サポートにより、単一ツールへの依存度が低下。顧客は Graphisoft、Autodesk、その他ツールを柔軟に組み合わせられます。

3. **新しい職能の創出**

Design Intelligence Platform が BIM 専門知識不要の設計支援を提供すれば、従来の「BIM マネージャー」に加え、データ解析・意思決定支援に特化した職能が成長する可能性があります。