背景

IFC(Industry Foundation Class)は2012年にISO認証を取得した建設業界のBIM標準として、20年以上にわたって国際的な設計・施工情報交換の基盤となってきました。しかし既存のIFC標準は仕様が複雑で、ソフトウェア実装のハードルが高く、業界からは「より簡潔で導入しやすい標準が必要」という声が高まっていました。特にAI・自動化・IoT連携などの新しいワークフローに対応させるには、IFC全体を一度根本から設計し直す必要があると認識されていました。buildingSMART Internationalはこうした業界ニーズに応え、次世代のIFC標準「IFCX」の開発を計画してきました。

内容

2026年8月26日、buildingSMART Internationalは「IFCX – Core & Modularisation Project」の最終計画がbSIの承認プロセスの次段階に合格したことを発表しました。本プロジェクトの主要な成果物は「IFCX Core」で、これは最小限でありながらモジュール式で拡張可能な基盤となります。IFCX Coreは、将来の領域別モジュール(建築、土木、MEP、FM等)が独立して開発される際の共通の基礎層として機能するよう設計されています。プロジェクトの目標は以下の通りです:①IFCXのデータ交換技術を定義し、技術的アプローチと実装方法を確定する、②最小限で拡張可能なCoreを定義し、将来のモジュール開発に必要な共通概念を提供する、③モジュール式の開発フレームワークを確立し、buildingSMARTおよびISO/CENの将来のプロジェクトが一貫性を保ちながら独立したモジュールを開発できるようにする、④ISO/CEN(国際標準化機構/欧州標準化委員会)との連携を維持し、ISO/TC 59/SC 13 JWG 12と協調しながら国際標準化へ向けた準備を進める、です。また同時に、buildingSMART Internationalはプロジェクト資金化の段階に移行し、技術開発、実装テスト、ドキュメント作成、業界への普及活動、標準化活動をサポートする組織スポンサーの募集を開始しました。

技術的ポイント

IFCXの最も重要な技術的特徴は「コア・モジュール分離アーキテクチャ」です。従来のIFC標準は単一の大規模なスキーマであり、すべての建設業界のユースケースを一つのモデルで表現しようとしていました。これに対し、IFCX Coreは建築・土木・MEP・FM等すべての領域に共通する最小限の概念セット(位置、部材の分解構造、属性管理等)のみを含みます。各領域固有の情報交換ルールは、IFCX Coreの上に「積み木式」で構築される独立したモジュールとして開発されます。この設計により、個別モジュールの保守・拡張が容易になり、ソフトウェア開発者の実装負荷も大幅に軽減されます。また、ISO/CEN標準化との協調開発により、国際的な相互運用性と長期的な信頼性も確保される点が技術的な強みです。既存のIFC 2x3やIFC 4.xは単一標準体系であり、新しい機能追加ごとに全体的な整合性確認が必要でしたが、IFCXではモジュール単位での検証が可能になります。

業界への影響

IFCX Coreの登場は、グローバルなBIM・openBIM業界に構造的な変化をもたらします。第一に、ソフトウェア企業の開発効率が向上します。従来、建築設計ソフト、構造解析ツール、施工管理システム、FM資産管理ツールなどの各カテゴリーのベンダーは、独自の形式でのデータ変換や複雑なIFC変換プログラムを開発していました。IFCXのモジュール式設計により、必要な領域のモジュールのみを実装すればよくなり、開発期間の短縮とコスト削減が期待できます。第二に、業界横断的なデータ連携が加速します。デジタルツイン、BIM-to-AR/VR、AI予測分析など、複数のドメインをまたがるワークフローが実装しやすくなります。第三に、新興企業や小規模SIベンダーのopenBIM市場参入障壁が低下します。IFC 4.xの複雑な仕様書を理解し実装することは技術的に高いハードルでしたが、IFCX Coreはより簡潔で学習曲線が緩やかになる見込みです。