背景

IFC(Industry Foundation Class)は2012年のISO認定以来、建築・建設業界のオープンBIM標準として国際的に展開されてきました。しかし、グローバルな設計・施工・FM実務では、IFCの導入複雑性、拡張性の限界、異なるドメイン間のデータ整合性の課題が指摘され続けています。特に日本国内では、国土交通省のBIM/CIMロードマップ推進の中で、より実装しやすく、保守しやすい標準への要望が強まっていました。buildingSMART Internationalは、こうした業界からの声に応えるべく、IFCを抜本的に再構築するIFCX(IFC eXtended)プロジェクトを立ち上げ、2026年8月にコア層の開発計画がISO/CEN各委員会の承認を得たことが今回のマイルストーンです。

内容

IFCX – Core & Modularisation プロジェクトの最終計画がbuildingSMART Internationalの承認プロセスを通過し、次段階への移行が決定されました。本プロジェクトの主要な目標は、IFCXコアと呼ばれる最小限で、モジュラーで拡張性に富んだ基盤層を開発・発行することです。このコアレイヤーは、将来のIFCXドメイン別モジュール群の共通基盤となります。プロジェクトは複数の具体的成果物を予定しています。まず、IFCX対応のデータ交換テクノロジーの定義と評価を行い、実装方針を確定させます。次に、将来の各モジュール開発に必要な最小限の共通概念を備えた、拡張性のあるコアを定義します。さらに、buildingSMARTとISO傘下で独立した複数のドメイン別モジュール開発を可能にするフレームワークを構築します。これらはISO/TC 59/SC 13 JWG 12と協調開発され、国際標準化に向けて準備されます。実装ガイダンス、開発者向けサンプルコード提供、透明性のある審査・ガバナンス機構の構築も含まれています。

技術的ポイント

IFCXコアの最大の技術的特徴は、現在のIFC標準の「すべてを含む」アプローチから「最小限の必須要素+モジュール拡張」への転換です。既存のIFCは建築・土木・設備・FM等の領域を一つのスキーマ内で定義しようとするため、実装の複雑性が増大し、特にニッチなユースケース対応時の保守負荷が高まります。IFCXコアでは、すべての建設プロジェクトに共通する基本的なエンティティ(空間概念、要素の識別情報、プロパティ定義等)に限定し、建築系、土木系、インフラ系といった各ドメインの仕様は独立モジュールとして開発する計画です。これにより、ソフトウェアベンダーの実装負担が軽減され、データ交換の検証・テストも各モジュール単位で実施可能になります。また、ISO/CEN との正式な協調により、IFCXは単なるベンダー独自拡張ではなく、国際的な正式標準としての位置づけが確保される点も重要です。既存のBREP(境界表現)やプロパティセット構造との互換性維持も設計段階で検討されています。

業界への影響

グローバルな建設デジタル化の中で、IFCXコアの完成は業界全体に波及的な影響をもたらします。まず、ソフトウェアベンダー各社(AutodeskのRevit、Graphisoft のArchicad、Trimble等)は、モジュラー化により対応すべきドメイン範囲を限定できるようになり、実装とテストのコストが大幅に削減されます。結果として、より多くの中小ベンダーがIFC対応製品を開発可能になり、市場の競争が活発化することが期待されます。次に、プロジェクト実務では、プロジェクト特有のワークフローに応じたモジュール選択が可能になり、不要な仕様の組み込みを回避できます。また、AI・機械学習技術との統合も容易になり、設計最適化、施工管理の自動化、予測保全といったデジタルワークフロー実装の敷居が低下します。特に、BIM as a Service型のクラウドプラットフォーム事業者にとって、より軽量で相互運用性の高いデータ交換標準は戦略的に重要です。